[時論]セウォル号めぐる憶測自制を 調査委の活動を見守ろう
[時論]セウォル号めぐる憶測自制を 調査委の活動を見守ろう
【ソウル聯合ニュース】韓国南西部、珍島沖での沈没から約3年を経て引き揚げられた旅客船セウォル号は、海中での歳月を物語るかのように傷んでおり、見るも無残な姿だった。沈没事故では修学旅行中の高校生ら295人が死亡し、9人が依然行方不明となっている。悲しみをこらえて引き揚げを待ちわびていた遺族、特に行方不明者の家族は、変わり果てた姿を見てどう思っただろうか。その心情は察するに余りある。
韓国政府は、少なくない反対を押し切ってセウォル号の引き揚げを決めた。船体を海中に残したままでは、この事故にけりをつけられないと判断したのだろう。事故をめぐる検察の捜査結果の発表後に浮上した非常識な憶測や推論を払拭(ふっしょく)するためにも、必要なことだった。だが、引き揚げられた船体が事故現場から90キロほど離れた木浦の港に到着してもいないうちから、新たな批判や疑惑が頭をもたげている。実にやるせない。
その一つは、船体の引き揚げに時間がかかりすぎたというものだ。政府は事故から1年後の2015年4月に引き揚げの計画を初めて公にした。引き揚げに成功したのはそれから1年11カ月を経た今月23日だった。時間がかかった主因は作業方法の変更だ。
政府と契約を結んだ中国企業の上海サルベージは元々、海上クレーンで引き揚げ、フローティングドックに載せて移動させる計画だったが、事故海域の状況を踏まえ、バージ船の油圧ジャッキを使ってつりあげ、半潜水式の運搬船に移す方法に切り替えた。沈没した船体を丸ごと引き揚げる、過去に例のない試みだった。上海サルベージはこの難しい作業を成功させ、世界レベルの技術力を認められたが、作業期間が計画の2倍以上に長引いたことで収支面では大きな損失を被った。わざと引き揚げを遅らせたという主張にうなずけない理由だ。
作業の途中で、接岸時に船と陸をつなぐ架橋となる船尾のランプウェイをやむを得ず切断した際に出た批判もそうだ。ランプウェイが開いて事故が起きたのかもしれないのに、証拠隠滅ではないかとの主張だ。ならば切断せずに引き揚げを諦めればよかったとでも言うのか。海洋水産部は最終的に、事故海域に沈む重さ40トンのランプウェイを引き揚げ、船体調査委員会に引き渡すことにした。
政界でも、引き揚げの時期をめぐる神経戦が起きている。朴槿恵(パク・クネ)政権の与党だった自由韓国党の大統領選候補と目される洪準杓(ホン・ジュンピョ)慶尚南道知事は26日、「妙なことに大統領選の期間に船が引き揚げられた。どうしてよりによってこの時期だったのか、理解し難い」と述べた。5月9日に予定される大統領選挙の情勢に不利に作用しかねないことを意識した発言のようだ。
船体が木浦の港に到着すれば、すぐに船体調査委の活動も始まる見通しだ。特別法により設置される同委員会は、すでに国会が推薦する5人と事故犠牲者遺族の代表が選ぶ3人で委員を固めた。早ければ28日にも、国会で委員会の構成案が確定されるという。委員会は資料や物品の提出命令、同行命令、参考人などの調査、告発・捜査要請、監査要求など絶大な権限を持ち、最長10カにわたり活動する。これほど力の強い組織が近く活動を始めるのだから、特に根拠もなく疑惑を提起するという無駄なことはやめ、落ち着いて調査の結果を見守るべきだ。